「知識創造プロセス」にもとづいたオフィス空間


近年の「オフィス」という働く場に対する考え方は、大きく変わってきています。

新型コロナウイルスによりテレワークの導入・推進が喫緊の課題となった企業も多いでしょう。

テレワークや在宅勤務など働き方の変革が進むことによって、企業にとってのオフィスのあり方や役割は変わってくるはずです。

今までの日本のオフィスは「社員が集まって、作業や業務を行う場所」という認識でしたが、近年は「社員の知識創造を促す場所」という認識へと変革してきています。


日本ではICT・IoTの進展とともに知識社会に移行し、オフィスは「利益を生む “知識” を創造する場」として認識されるようになってきています。

知識創造こそが経営価値の源泉であり、知識創造の担い手である社員が、アイデアを生み出しやすい環境や働き方が求められるようになってきており、この「知識創造」を促す仕組みを持った場を構築することが、今後のオフィスのあり方や役割に求められていくこととなります。

それが「知識創造プロセス」にもとづいたオフィスづくりです。





知識創造活動とは


知識を創造するプロセスとして、野中郁次郎が著書『知識創造企業』の中で提唱した「SECIモデル」が多く知られています。

SECIモデルは、知識には「暗黙知」と「形式知」の2つがあるとしており、この2つの知が個人・集団組織の中で、相互に変換・移転することによる新たな「知」の形成プロセスを表したものです。


暗黙知

人間の頭の中に存在する「知」

言葉や図像で表現しづらい主観的な知識で、自分の中で整理できていない漠然としたアイデアなどのこと。

たとえば、現場のノウハウ・コツ、市場や顧客に関する感覚・経験則、習熟者・専門職のスキル、など。

形式知

誰もが共通認識できる形になった客観的な「知」

具体的に見える、認識できるものになっている知識のこと。

たとえば、体系的な分析・実践マニュアル、技術理論書、スケッチ・図面・模型、など。




知識創造のプロセス


「暗黙知」は、個人から外に表出されることによって組織内に共有され、それをもとに誰もが活用できる「形式知」になって、組織としての価値が生まれる。

この「形式知」を一人ひとりが実践することで、個人の頭の中に一段階上のレベルの暗黙知が芽生え、次の形式知化へつながり、さらに高い価値を生む。

新たな知識は、このように「暗黙知」と「形式知」の変換が繰り返されることによって生み出され、より高度なものへと昇華していく、と考えられています。


知識創造プロセスは、【共同化】【表出化】【連結化】【内面化】の4つの知識創造変換モードをたどっていきます。



共同化(Socialization)

社内外を歩き回ることによる暗黙知の獲得

・顧客やサービス提供者と体験をともにすることで知識を体得する

・販売や製造の現場など、社内の各部門に出向くことを通じて知識を獲得したり、雰囲気を体感する

・獲得した知識を自らの暗黙知に関係づける


表出化(Externalization)

自分の暗黙知の表出、形式知への置き換え

・まだ言葉にしたことのない自分のアイデアを対話を通じて言語・図像などの形態にする

・専門家や顧客など他者の暗黙知を誘発させ、理解しやすい形にする

・表出された知識を組織で共有する


連結化(Combination)

新たな形式知の編集と伝達

・既存の形式知を内外から収集し、加工し、編集する

・創りつつある新たな形式知に、既存の形式知を組み入れ、補強する

・創り出した形式知を内外に伝達・普及させる


内面化(Internalization)

実践や実験を通じた形式知の体得

・新しい形式知を現場で実践することで、個人に深く体得させる

・仮想的な状態のなかで、形式知を疑似体験させることで学習させる


SECIモデル


このようなプロセスをたどって知識創造が行われるとされています。

この知識創造の変換モードを促進・誘発する仕掛けのオフィスを構築することで、知識創造を活性化させることが可能になります。




知識創造プロセスを活用したオフィスづくり


知識創造のプロセスを表したSECIモデルを、実際のオフィスにおいて展開するために、知識を創造するための行動を4つのプロセスごとに3つの行動、合計12の行動としてまとめることができます。

これらの12の行動が相互に関係づけられながら、活発に行われることで知識の変革が進み、知識創造が行われると考えられます。


刺激し合う


①ふらふら歩く

暗黙知を獲得するために「接する・見る・見られる・感じ合う」行動につなげること。明確な目的がなくても、人やモノに接するためにふらふら歩き回る行動。


②接する

同僚・他部門・顧客・製品などに対して、身近に接することで暗黙知を獲得し、共有する。お互いの価値観を理解し合うことができ、モノに直接触れることで質感を感じることができる。


③見る・見られる・感じ合う

上司・同僚・他部門・顧客・工場・製品などの様子や雰囲気を感じ合う行動。他者の行動や言動を見て気づきを得たり、理解を持ったりすることができる。



~ 具体的な例 ~

一体感を高める動線

執務空間をジグザグ状にして、なるべく多くの人のそばを通ったり、他部門を通り抜けるような動線の設定。

個人の席を固定しないフリーアドレスでも、席までの動線や周囲に居合わせる人がその都度変わるようにすることで、刺激を受けることができ有効である。


見渡せる空間

フロア全体の様子が見渡せるよう、執務空間には背の高いキャビネットやパネルを設けない。個室や仕切りを設ける場合には、ガラスなどの透過性のある素材を活用するなど、開放的な空間をつくる。


気づきを得る生活支援スペース

リフレッシュスペースやコピーコーナー、ライブラリースペース、文房具や資料のストックヤードなど、さまざまな部門の人が自然と集まる空間をマグネットスペースとして活用する。そこで偶然居合わせた人同士の気軽な会話が互いの人となりを知るきっかけとなり、その人間関係が貴重な情報源になる事もあります。


人と知識をつなぐ業務支援スペース

業務支援や共用収納空間にテーブルやイス・ソファーを設けることで、作業面の実用性はもちろん、コピー・FAX・資料探しなど、異なる目的でマグネットスペースに出向いた人同士が腰を据えて話をする機会を増やし、あいさつだけで終わらせないための仕掛けをつくることは有効です。



アイデアを表に出す


④軽く話してみる

同僚になんとなく思いついた新製品のアイデアを話してみたり、モヤモヤした自分の考えを誰かに話してみる、などの行動。


⑤ワイガヤ・ブレストする

担当チームなどで集まり、テーマに沿って自由な発想を積極的に出してみる行動。リラックスした中で行われることが自由なアイデア出しにつながる。


⑥絵にする・たとえる

イメージする場面や概念図を描くことで、自分の考えを表に出す行動。絵にしたり、たとえることで通常の言語だけではうまく表現できないような内容を、他の人に理解できるような形にする。


~ 具体的な例 ~

思いついたらすぐ話せる空間

思いついたアイデアを同僚に話してみると、今後の方向性の糸口が見つかったり、新たなアイデアを思いつくこともあります。デスク間にサブテーブルがあり、すぐにミーティングが行える、通路脇にスツールやホワイトボードを配置する、などタイミングを逃さない工夫がポイントです。


アイデアを出し合う空間

アイデアを出し合うには、リラックスしてワイワイ・ガヤガヤ何でも発言できる雰囲気で行うブレーンストーミングが有効です。可動式のテーブルやイスを利用したり、飛び入れ参加しやすいオープンスペースで行うなどの場合もあります。


短時間での会議環境

立ったままで会議を行う空間。立ち会議は短時間に密度の濃い議論をしようという共通認識が生じるため、情報交換もスムーズに運ぶなどのメリットがあります。


まとめる


⑦調べる・分析する・編集・蓄積する

アイデアについて調査・分析し、論理的な批判を加えることで、実際に利用・応用可能なものにする行動。最終的には文書や図面にまとめて保存することで、誰もが使える知識にする。


⑧真剣勝負の議論をする

意見の相違点を話しあい、1つにまとめていくといった行動。批判的な意見も含めて論理的に討議する。また相互の意見の相違点を話し合い、意見を収斂させ、意志決定する。


⑨見てもらう・聞いてもらう

新たな形式知を第三者にむけて公式の場で発表したり、会議の資料を見せ意見をもらうといった、実際に見てもらって評価を受ける行動。他者に評価してもらうことで、自分自身に第三者的な視点を持たせることが可能になる。


~ 具体的な例 ~

個人ワークに対応する環境

ものを調べ分析し、既存の知識を編集することで新たな知識をつくり出し、後に活用するために蓄積するといった個人ワークの多くが自席で行われています。自席を自分自身にとって、より快適な環境とするため、パーソナライゼーション(個人向けにカスタマイズすること)を行ったり、共用の集中作業席を設ける、などがあります。


グループワークた対応する環境

アイデアや意見をまとめるためには、真剣な討議やグループワークに没頭できる空間が必要です。周囲から隔離され、視覚的に遮断された集中できる環境や、画像や映像によるコミュニケーションを実現するTV会議システムなどの設置による情報共有が図れる。



自分のものにする


⑩試す

新製品の模型や試作品をつくり、シミュレーションしてみる、実際に試作してみたり、方法を試してみたりする行動。試すことで全体の関係について理解を深めたり、概念を再整理することにつながる。


⑪実践する

仕事などで実践してみて、納得する行動。顧客に新製品を紹介したり、新しい知識を用いて商談を行うなど、実際に相手の反応を見ることで、市場で受け入れられそうかを直感的に理解できる。



⑫理解を深める

繰り返しやってみたり、自分の考え方を見直すことで形式知を体得する行動。ロールプレイ学習を受ける、図面を書けるように訓練する、セミナーを受講しにいく、などの行動。

~ 具体的な例 ~

試行と検証のスペース

さまざまな素材やカタログなどが用意されたサンプルコーナーや、工具類が並ぶ工作室、機材や設備が整った実験室、など試行と検証ができるスペースを設ける。システムなどの導入に際しての念入りなテストの繰り返しにより全体の関係について理解を深め、不明瞭な部分を再認識することができる。


実践と学習のスペース

知識創造行動によって得られるアイデアを形にしたものである、自社製品や専門技術に対する社外からの反応を、いち早く取り入れられるようにする空間。受付にショールーム機能を併設し、自社製品や専門技術などの実物や紹介パネルを展示したり、プロモーション映像を流すなど、直接顧客に説明できる実践のスペースを設ける、などは有効です。


知識創造プロセス




このような「知識創造プロセス」における12の行動をもとに、実際のオフィスに何をどのように取り入れるか、どのような施策が効果的かは、それぞれの企業によって異なります。

まずは自社に何が必要なのか、問題・課題を明らかにし、オフィスのあり方・役割を明確にすることが大切です。


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